一口にヒートマップと言っても、その種類は複数存在します。それぞれ解析できるユーザー行動の側面が異なり、得意とする分析目的も異なります。ここでは代表的なヒートマップの種類(クリック、スクロール、アテンション、マウスフロー、タッチ)について概要と特徴を解説し、どの種類をどのような場面で使うべきかを紹介します。自社の課題に合ったヒートマップを選ぶ参考にしてください。
クリックヒートマップとは?
クリックヒートマップは、ユーザーがページ上のどの場所をクリック(PCの場合)またはタップ(スマホ・タブレットの場合)したかを色で示すヒートマップです。クリックヒートマップでは訪問者が操作した箇所がまるで動画の再生跡のように色付きで表示されます。クリック数が多い箇所ほど暖色系(赤や黄色)に、少ない箇所ほど寒色系(青や緑)に表示され、一目でクリックの集中度合いが分かります。
クリックヒートマップから得られる主な示唆は次のとおりです。
- 人気のリンクやボタンの把握: ナビゲーションメニューやページ内のボタンなど、どの要素が頻繁にクリックされているかが分かります。例えば、あるCTAボタンが真っ赤になっていれば非常に多くのユーザーがクリックしていることを意味します。
- クリックされていない要素の発見: 期待されたリンクやボタンが実際にはほとんどクリックされていない場合、その箇所は色が付かず目立ちません。重要なリンクが青いままであれば、デザインや配置に問題がある可能性があります。
- 誤解を招いているUIの検出: クリックヒートマップは、本来クリックできない部分がユーザーにクリックされているケースも浮き彫りにします。例えば、単なる装飾のアイコンや下線付きのテキストが誤ってリンクと認識されてクリックされている場合、それらの箇所にも色が表示されます。これは「ユーザーがクリックできると誤解したUI要素」が存在することを意味し、デザインの修正ポイントとなります。実際「見た目を良くするために装飾したテキストがボタンに見えてしまいクリックを誘発していた」というケースもあります。
- ユーザーの関心領域の推測: クリックやタップされた箇所から、ユーザーが何に興味を持っているかを汲み取ることもできます。例えば、商品画像が頻繁にクリックされていればユーザーはその商品画像に強い関心があると考えられます。
このようにクリックヒートマップはページ上でユーザーが実際にアクションを起こした場所を明らかにするため、CTAの効果測定やナビゲーションの利用状況分析などに適しています。

スクロールヒートマップとは?
スクロールヒートマップは、ユーザーがページのどの部分までスクロールしたか、つまり閲覧範囲と離脱ポイントを視覚化するヒートマップです。ページの上下方向に沿って色が変化し、多くのユーザーが到達したエリアほど暖色に、少ないエリアほど寒色に表示されます。別名「終了エリア分析」とも呼ばれ、ページ内でユーザーが離脱した位置を示すのが特徴です。
スクロールヒートマップで分かることは主に以下の点です。
- どこまで読まれているか(到達率): ページ上部(ファーストビュー)は全ユーザーが目にしますが、ページ下部になるほど到達率は下がります。スクロールヒートマップを見ると、だいたいページの何割くらいまでの位置で色が青くなり始めているかが分かります。例えば、ページ全体の50%付近で青になっていれば、約半数のユーザーはその地点より下まで到達していないことを意味します。どの程度スクロールされているかを把握することで、重要なコンテンツはできるだけ上部に配置するなどの判断材料になります。
- 離脱の多い箇所の特定: 特定の位置で急激に色が変わっている場合、そこが離脱の分岐点と考えられます。例えば、ある段落直前までは黄色や緑だったものが、その段落以降一気に青になっている場合、その段落付近で多くのユーザーがページ閲覧を止めた(離脱した)ことが分かります。その原因として、「直前までの内容で目的を達したため離脱した」か「その段落に魅力がなく興味を失った」かなどが考えられます。前者であれば必ずしも悪いことではありませんが、後者であればコンテンツ内容の改善が必要でしょう。
- ページの長さや構成の適切さ: もしページ最後まで真っ赤であれば、多くのユーザーが最後までスクロールしていることになり、ページの長さや構成は適切と考えられます。一方、途中で真っ青になっていれば、そのページはユーザーにとって冗長か内容的に不満がある可能性があります。場合によってはページを分割することや不要なセクションを削除することも検討すべきでしょう。
- 折り返し地点(ファーストビュー)での離脱: 画面下(折り返し)部分が極端に青い場合、スクロールせず離脱するユーザーが多いことを意味します。これはファーストビューでユーザーの興味を引けていない可能性が高いです。そうした場合には、ファーストビューによりインパクトのある要素(魅力的な見出しやビジュアル、CTAなど)を配置する、ページ読み込み速度を改善する、といった対策が考えられます。
スクロールヒートマップはこのようにコンテンツの配置やページ構成の妥当性を評価するのに適しています。例えば「お問い合わせフォームがページ最下部にあるが半数以上のユーザーはそこまで見ていない」と分かれば、フォームへの導線を強化したり途中にもCTAボタンを設置する、といった具体的な施策立案につながります。

アテンションヒートマップとは?
アテンションヒートマップ(熟読ヒートマップとも呼ばれます)は、ユーザーがページ内の各エリアでどれだけ時間をかけて閲覧したかを色で可視化するヒートマップです。一見スクロールヒートマップと似ていますが、測定している指標が異なります。スクロールヒートマップが「到達したか否か(閲覧の有無)」に着目するのに対し、アテンションヒートマップは「滞在した時間の長さ」に着目します。
具体的には、ユーザーがスクロールを止めて各セクションを閲覧した平均時間を計測し、長く閲覧された箇所ほど暖色、短い箇所ほど寒色で示します。例えば、ある段落でユーザーが立ち止まってじっくり読んでいればその部分は赤くなり、逆にザッとスクロールを通過しただけなら青く表示されます。PtengineやUser Insightなど主要なツールで実装されており、「熟読エリア分析」と呼ばれることもあります。
アテンションヒートマップから得られる示唆は次のとおりです。
- 関心の高いコンテンツの把握: ユーザーが興味を持って読み込んでいる部分は赤く表示されます。そこにはユーザーが求める情報や魅力的なコンテンツが含まれている可能性が高いです。例えば製品ページでスペック表の部分が赤ければ、訪問者は仕様詳細を熟読していると分かります。その場合、さらに詳細な説明や比較情報を追加すると効果的かもしれません。
- 読み飛ばされている部分の発見: 青く表示された部分はユーザーが素早く通過したか、ほとんど見ていない箇所です。そこに本来伝えたい重要な情報が含まれているなら、内容や見せ方を再検討する必要があります。例えば、記事の序盤が青い場合、導入部分が退屈で読み飛ばされている可能性があります。より興味を引く書き出しに変更したり、要点を冒頭にまとめるなどの改善が考えられます。
- ユーザーの混乱や躊躇の検出: アテンションヒートマップはユーザーの心理的なつまずきを示唆することもあります。例えば、フォーム入力ページで特定の項目部分が異様に赤くなっていた場合、ユーザーがその項目で迷って長時間留まっている可能性があります。この場合、項目の説明を分かりやすくしたり必須/任意の表示を明確にする、といった改善につながります。
- コンテンツ配置の最適化: もしページ後半に赤い熟読エリアが集中しているなら、そのコンテンツは本来もっと上部に配置すべき重要情報かもしれません。一方で、ページ前半に青いエリアがあれば、その部分は思い切って削除してしまっても良いかもしれません。このように、ユーザーの注意がどこに向けられているかをもとにコンテンツレイアウトを見直すことで、サイト全体のUX向上が期待できます。
以上のように、アテンションヒートマップはユーザーの「視線の濃淡」を知るツールと言えます。スクロールヒートマップと組み合わせることで、「閲覧はされたがすぐ離脱した箇所」 vs 「しっかり熟読された箇所」が判別でき、より精度の高い分析が可能になります。
マウスフローヒートマップとは?
マウスフローヒートマップ(マウスムーブヒートマップとも呼ばれます)は、PCサイトにおけるユーザーのマウスカーソルの移動軌跡を可視化したヒートマップです。ユーザーのマウスの動きをトレースし、動きが多く集中した部分ほど赤く表示されます。マウスの動きはユーザーの視線と相関することが多いとされており、簡易的なアイトラッキング(視線追跡)の代替として注目されています。
マウスフローヒートマップの特徴・活用ポイントは以下のとおりです。
- 視線の流れを推測できる: ユーザーがページ上でどのルートで情報を見ているかを推察できます。例えば、マウスの軌跡が見出しから本文へ、そして画像に移動している様子が分かれば、多くのユーザーがその順番で視線を動かしていると考えられます。これにより、ユーザーがページ内で辿っている視線の導線を把握できます。
- 注目部分の詳細把握: アテンションヒートマップがセクション単位の滞在時間を示すのに対し、マウスフローはページ上のより細かな箇所への興味を捉えます。例えば、長い記事の中で特定の一文にマウスがホバーし続けていた場合(赤く表示される)、ユーザーがその一文を特に重要視した可能性があります。
- ホバー動作の分析: マウスフローヒートマップでは、ユーザーがある要素上にマウスを載せて停止している(ホバーしている)動作も検出できます。メニュー項目やリンク上にマウスが集まっていれば、ユーザーがそこに関心を示しつつクリックするか迷っている状況が考えられます。この情報から「ホバーしたがクリックされない要素」を洗い出し、さらに情報提供が必要か判断できます。
- PCサイト限定: 注意点として、マウスフローヒートマップはあくまでマウスカーソルの動きを利用するため、スマートフォンなどタッチデバイスでの分析には使えません。スマホユーザーの分析には後述のタッチヒートマップが別途必要です。
全体として、マウスフローヒートマップはユーザーの視線や興味の移動パターンを細かく知るのに有効です。例えば、「ユーザーがある段落を読み飛ばして次の画像に視線を移している」ことが分かれば、その段落を改善するヒントになります。ただし前述のとおりスマホ分析には対応しないため、PCアクセスの多いサイトやデスクトップ向けWebアプリのUI最適化などに用いると良いでしょう。

タッチヒートマップとは?
タッチヒートマップ(タッチアクションヒートマップとも呼ばれます)は、スマートフォンやタブレットにおけるユーザーのタップやスワイプなどの操作を可視化するヒートマップです。基本的な考え方はクリックヒートマップと似ていますが、モバイル特有のジェスチャー(ピンチやスワイプ、横スクロール等)も含めて分析できる点が特徴です。
タッチヒートマップから得られる情報とメリットは以下のとおりです。
- タップ位置の分析: スマホ画面上でユーザーがどこをタップしているかが分かります。ボタンやリンクが適切にタップされているか、また誤タップが多発していないかを確認できます。例えば、小さすぎるボタンはタップ箇所がバラついたり周囲にも反応が散らばる傾向が出ます。そうした場合はボタンサイズを拡大する、余白を十分取るなどモバイルUI改善の指針になります。
- スワイプやスクロールの検出: スマホでは指によるスワイプでコンテンツを切り替えるUIも多いですが、ユーザーが実際にスワイプ操作を行っているかはログからは見えにくいものです。タッチヒートマップを使えば、例えば横に長いコンテンツがちゃんと横スクロール(スワイプ)されているかを確認できます。もし横スクロールされずに離脱しているなら、スマホで見やすいレイアウトに改める必要があると判断できます。
- モバイル特有の問題発見: スマホでは画面が小さいため、PCでは起こらないようなユーザー行動が発生します。例えば、誤タップによる意図しないページ遷移や、スクロールのしづらさによる途中離脱などです。タッチヒートマップ上で不自然な箇所にタップが集中していれば、UI上の不備や誤認識されるデザインが潜んでいるかもしれません。先述のクリックヒートマップと同様に、クリックできない要素がタップされている場合も色が表示されますので、スマホUIの改善ポイント抽出に役立ちます。
- モバイルでの使い勝手検証: スマホで快適にサイトが閲覧できているかを確かめる用途にも使えます。例えば、重要なボタンが画面下固定で表示されているがタップが少ない場合、ユーザーはその存在に気付いていない可能性があります。また、フッター付近のリンク群が全くタップされていなければ、モバイルではそこまで到達していない(=スクロールが長すぎる)といった推測もできます。
このようにタッチヒートマップはモバイルユーザーの行動を詳細に分析する上で欠かせません。最近ではWeb全体のトラフィックの大半がモバイルからというケースも多いため、スマホサイトのUX改善にはタッチヒートマップの活用が非常に有効です。PC向けのマウスフローと組み合わせれば、デバイスごとのUI最適化ポイントを網羅的に洗い出すことができるでしょう。

どの種類のヒートマップをどの場面で使うべきか
それぞれのヒートマップの特徴を踏まえ、目的に応じた使い分けの指針をまとめます。
- ユーザーのクリック動向を知りたい場合: ナビゲーションメニューの利用状況やCTAボタンのクリック率など、ページ上のクリック挙動を分析したいときはPtengineのような「クリックヒートマップ」を使います。ユーザーが何を求めてどこをクリックしているか、またクリックされていない要素はどこか、といった情報からCTA改善や内部リンク最適化のヒントが得られます。
- ページのスクロール率や離脱ポイントを知りたい場合: コンテンツの長さや配置の適切さを検討するには「スクロールヒートマップ」が有効です。ユーザーがどこまで読んだか、どこで離脱したかを把握し、重要情報の配置場所やページの長さの改善に役立てます。
- ユーザーが注目した内容や熟読箇所を知りたい場合: 記事や説明文などコンテンツの質的な興味度を分析するには「アテンションヒートマップ」が適しています。熟読された部分・流し読まれた部分が判明するため、コンテンツの取捨選択や強調箇所の検討材料になります。
- PCユーザーの細かな視線の動きを分析したい場合: デスクトップサイトでユーザーの視線の流れやホバー挙動まで捉えたいときは「マウスフローヒートマップ」を使います。クリックには至らないマウスの動きも含めて把握できるため、UI要素ごとの注目度合いをきめ細かく測定できます(※スマホ利用者には適用不可)。
- スマホユーザーの操作感やUI適合性を検証したい場合: モバイルサイトの分析には「タッチヒートマップ」が必須です。タップやスワイプの実態を把握し、スマホ特有のUI課題(ボタンの押しづらさやレイアウト不備など)を発見できます。
以上をまとめると、クリックヒートマップとスクロールヒートマップはほぼ全てのサイトで基本的に活用すべきであり、その上でアテンションヒートマップを使えばコンテンツ内容の質的評価が可能になります。さらにPCサイト重視ならマウスフローを、モバイル重視ならタッチヒートマップを追加で活用する、といった使い分けが効果的です。
例えば、新しいランディングページを制作した際にはまずスクロールとクリックのヒートマップで大枠の問題(離脱ポイントやクリック誘導の妥当性)を確認し、細部の改善フェーズでアテンションヒートマップやマウスフローを用いてUIテキストや配置を調整するといったアプローチが考えられます。
各ヒートマップは相互補完的に活用できるため、自社の分析目的に応じて組み合わせて使いましょう。その後の具体的なデータ分析方法については「ヒートマップのデータ分析方法」で詳しく解説します。
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