マーケティングで広告の効果を評価する際に重要となる指標の一つが「ROAS(ロアス)」、広告費用対効果です。ROASはReturn On Advertising Spendの略称で、かけた広告費1円あたりいくらの売上を生み出したかを示します。本記事ではROASの基本概念や重要性、計算方法と具体例、業界別の目安について解説します。さらに、ROASを改善する戦略や活用できるツール、CPA・CTR・LTVなど他の指標との比較も紹介します。企業のマーケターの方はぜひ参考にしてください。
ROAS(広告費用対効果)とは基本概念
ROAS(広告費用対効果)とは、広告に投じた費用に対して得られた売上の割合を示す指標です。簡単に言えば、「この広告費でどれだけ売上を上げたか」を測るものです。例えば広告費100円で売上500円を獲得したなら、ROASは5(500%)となり、1円の広告費で5円の売上を得たことになります。ROASが高いほど広告費の使い方が効率的であり、広告キャンペーンが効果的だったと判断できます。一方、ROASが低い場合は費用対効果が悪く、投下した広告費に見合った売上が得られていないことを意味します。
ROASは広告運用において広く用いられる重要指標であり、Web広告の費用対効果を表す一般的な指標とされています。広告ごとの収益性を客観的な数字で示せるため、複数キャンペーンの効果比較や広告費配分の判断材料として役立ちます。ただし、ROASはあくまで「売上」に基づく指標であり、商品原価や人件費などを考慮した利益までは反映しない点に注意が必要です。そのためROASだけに頼ると、肝心の利益率や長期的な顧客価値を見落とす恐れがあります。実際、ROASで黒字に見えても利益ベースでは赤字というケースも起こり得ます。ROASは広告効果を測る強力な指標ですが、ROI(投資利益率)やCPA(顧客獲得単価)など他の指標と組み合わせて総合的に分析することが重要といえます。
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ROASの重要性:広告最適化と収益最大化
企業のマーケターにとってROASを重視することは、広告予算を無駄なく活用し、収益を最大化する上で非常に重要です。ROASを把握すれば広告キャンペーンの効果を具体的な数字で評価できるため、効果の高い施策に予算を集中させたり、低い施策を見直すといった最適化判断が可能になります。たとえば複数の広告チャネルやクリエイティブを運用している場合でも、ROASという共通指標で横並びに比較することで、費用対効果の低い広告をカットし予算配分を見直すことができます。このようにROASは広告効果の客観的評価と課題抽出を可能にし、迅速なPDCAサイクルによる改善を促す指標として有用です。
またROASは短期間での売上最大化にも適しています。広告実施後すぐに売上への貢献度が数値で分かるため、短期目標の達成度合いを測りやすく、迅速な意思決定につなげられます。例えば、ある広告のROASが他より著しく高ければ、すぐにその広告へ追加投資し売上拡大を狙う、といった判断もデータに基づいて行えます。一方でROAS偏重のデメリットとして、長期的な利益やブランド価値を軽視してしまう可能性が挙げられます。ROASは広告経由の売上にフォーカスするため、広告によって獲得した顧客の将来的なリピート購入やLTV(顧客生涯価値)といった長期指標が考慮されません。そのため、新規顧客獲得フェーズでは短期的にはROASが低くても許容すべき場合もあります。最終的にはROASと他指標をバランス良く見ながら、短期の収益と長期の成長の両立を図ることが重要です。

ROASの計算方法と計算式
ROASの計算式は非常にシンプルで、「売上 ÷ 広告費 × 100%」で求められます。売上を広告費で割り、その結果を百分率(パーセント)で表した値がROASです。例えば広告費に100万円を投じて300万円の売上を得た場合、ROASは300%となります(300万円 ÷ 100万円 × 100)。この例では広告費1円あたり3円の売上を獲得した計算で、広告費の3倍の売上を上げたことを意味します。逆に、広告費50万円で売上が25万円しか上がらなかった場合、ROASは50%(25万円 ÷ 50万円 ×100)となり、支出した広告費の半分しか売上で回収できていないことになります。一般にROASの基準値は100%(売上=広告費)で、この値を下回ると広告費を売上で回収しきれておらず赤字、100%を上回れば一応黒字と判断できます。
しかし冒頭で述べたように、ROASは売上ベースの指標であり利益率は考慮していません。そのため実質的な損益分岐点となるROASは業種や商品の粗利率によって異なります。たとえば商品単価から原価を差し引いた粗利率が50%(半分が利益)の場合、損益分岐点ROASは200%となります。このケースではROASが200%を下回ると利益が出ず赤字ということです。自社のビジネスモデルに応じた損益分岐点を把握し、目標とするROASは最低でもそのラインを超える値に設定する必要があります。一般的には目標ROASを300~500%程度、少なくとも200%以上に設定して運用する企業が多いと言われます。例えば粗利率70%の商品であれば下限ROASは約143%ですが、利益も確保するには倍の285%以上など余裕を持った設定が望ましいとの提案があります。このように、ROASの計算結果は何%であれば成功と言えるかは各社各様ですが、少なくとも100%を下回れば広告費倒れである点は共通認識です。自社の商品原価や利益目標を踏まえて必要なROAS水準を見極めることが大切です。

業界別・広告チャネル別のROAS目安
ROASの平均値や目安は、広告の種類や業界によって大きく異なります。それぞれの特性に応じて異なる水準となるため、自社の状況と照らし合わせる際の参考にしましょう。以下に広告媒体別および業界別の平均的なROASレンジの一例を紹介します。
- Google検索広告:ユーザーが能動的に検索している分野の広告のためコンバージョン率が高く、平均ROASは「4~6倍」程度と高めです。一方、Googleディスプレイ広告は興味関心による露出であるためやや低く、「2~4倍」が目安とされています。
- バナー広告(純広告):Webサイト上に表示されるバナー型の広告はクリック率自体が低めで直接的な購買につながりにくく、平均ROASは「1~3倍」程度とされています。主にブランド認知向上やリターゲティング(追客)目的で用いられるケースが多いです。
- 動画広告:YouTubeやSNS上の動画による広告は商品・サービスの魅力を詳しく伝えられるメリットがあり、平均ROASは「2~5倍」程度と言われます。視覚・聴覚に訴えるインパクトが大きいため購買意欲を喚起しやすい一方、制作コストもかかるため費用対効果の幅が大きくなる傾向です。
- インフルエンサーマーケティング:インフルエンサー(SNS発信力の高い個人)を起用したプロモーションでは、フォロワーとの強い信頼関係により高い訴求効果が期待できます。平均ROASは「3~8倍」と幅広いですが、インフルエンサーの影響力や商品の親和性によって大きく左右されます。
次に、業界別に見た広告ROASの目安です。商品単価や購買プロセス、リピート性の違いにより、業界ごとに広告効率の基準値は異なります。
- 小売・EC業界:消費者がオンラインで手軽に購入できる物販系のECでは比較的短期間でコンバージョンが発生しやすく、平均ROASは「4~10倍」と高めです。セールやクーポン施策で一時的にROASが急上昇することもあります。
- ファッション・アパレル業界:洋服やアクセサリなど視覚的訴求が重要な商材では、InstagramなどSNS広告が効果を発揮しやすい傾向です。そのため平均ROASは「3~8倍」程度で、ビジュアル次第で結果が大きく変動します。
- 美容・健康業界:コスメやサプリメント等はリピーター獲得が収益の鍵となる分野です。定期購入やサブスクリプションモデルが多いため初回購入時点のROASは低めになりやすく、平均「2~5倍」程度です。広告ではまずお試し購入を促し、LTVで回収する戦略がとられます。
- SaaS・ソフトウェア業界:クラウドサービスなど長期契約が前提のビジネスでは、一人当たりの顧客価値(LTV)が高くなる傾向です。その分広告効率も高めに出やすく、平均ROASは「3~7倍」ほどとされています。無料トライアルやデモを通じてリードを育成し、本契約で収益回収するモデルが一般的です。
- 不動産・金融業界:不動産販売や金融商品(ローン、証券など)は成約単価が非常に高額なため、少数のコンバージョンでも大きな売上になります。平均ROASも「6~12倍」と高水準になるケースが多いです。一件成約あたりの利益が大きいぶん、広告競争も激しく広告単価(CPC)は高騰しがちです。
以上はあくまで一般的な目安ですが、自社の属する業界や扱う商材における平均的なROAS水準を知っておくことは、目標設定や効果測定の指標として有用です。「自社のROASは業界平均より高いのか低いのか」「広告チャネル選択は適切か」といった観点で分析することで、より効果的な広告戦略の立案につなげることができます。
具体的な計算例とシミュレーション(Google広告・Facebook広告のケーススタディ)
ROASの理解を深めるために、異なる広告チャネル別の具体的な計算例を見てみましょう。ここでは代表的なGoogle広告(リスティング広告)とFacebook広告(SNS広告)を例に、ROASの算出とその意味合いを解説します。それぞれのプラットフォームでROASを計算する方法自体は同じですが、ユーザー層や広告特性の違いにより得られる数値や解釈が異なります。また、簡単なシミュレーションを通じてROASがどのように変動するかも考えてみます。
Google広告のROAS計算例
例1:Google検索広告キャンペーン
あるECサイトがGoogle検索広告に月間 広告費 50万円 を投下したところ、広告経由で 100件の注文(コンバージョン)が発生しました。1件あたりの平均購買単価(顧客単価)が 5,000円 だった場合、広告経由売上は 100件 × 5,000円 = 50万円 となります。このキャンペーンのROASは、50万円 ÷ 50万円 × 100 = 100% です。つまり広告費50万円に対し同額の50万円の売上を上げた計算で、ROAS100%は広告費をちょうど回収できた状態を示します。
この例では一応広告費は無駄になっていませんが、利益は出ていない可能性があります。たとえば商品の原価や運用コストを差し引くと赤字となるでしょう。そのため多くの企業は検索広告で最低でもROAS200~300%以上を狙うことが多いです。では仮にコンバージョン数が同じ100件でも、平均単価が 10,000円 に上がった場合をシミュレーションしてみます。この場合、売上は 100件 × 10,000円 = 1,000万円 となり、ROASは1,000万円 ÷ 50万円 × 100 = 2000%(20倍) に跳ね上がります。売上単価の向上(または客単価の高い商品への誘導)がROAS改善に直結することが分かります。逆に言えば、ROASを改善するには客単価を上げる戦略(アップセルやクロスセル)も有効だという示唆になります。
例2:Googleディスプレイ広告キャンペーン
次に、同じ50万円の広告費を使ってGoogleのディスプレイ広告(バナー広告)を配信したケースを考えます。ディスプレイ広告では主に潜在層へのアプローチとなるためコンバージョン率が低く、例えば 20件の注文 しか獲得できなかったとします。平均購買単価5,000円の場合、売上は 20件 × 5,000円 = 10万円 に留まります。ROASは10万円 ÷ 50万円 × 100 = 20% となり、広告費の回収率20%という非常に低い値になります。ROAS20%は、広告費1円あたり0.2円の売上しか得られていない計算です。ディスプレイ広告は一般的に検索広告よりROASが低め(平均2~4倍程度)とはいえ、この結果は極端に費用対効果が悪いと言えます。
この場合、マーケターは原因分析が必要です。ターゲティングが適切でなかった、クリエイティブの訴求力が弱かった、あるいはコンバージョンに至るまでの導線(ランディングページ)が最適化されていなかった可能性があります。改善策としては後述するようなターゲティング精度の向上やクリエイティブ改善、入札戦略の見直しを行い、段階的にROASを引き上げることが求められます。それでもディスプレイ広告自体のROASが低調な場合は、配信量を縮小し他の効果的なチャネルに予算を振り向ける判断も必要でしょう。
Facebook広告のROAS計算例
例3:Facebook広告キャンペーン
続いて、SNSプラットフォームであるFacebook広告の例です。月間 広告費 50万円 を投入し、Facebook経由で 40件の購入 を獲得できたとします。Facebook広告は興味・属性に基づく配信のため、新規顧客の獲得単価は検索広告より高くなる傾向があります。平均購買単価が例えば 8,000円 だった場合、売上は 40件 × 8,000円 = 320万円 です。ROASは320万円 ÷ 50万円 × 100 = 640% となりました。広告費1円あたり6.4円の売上を上げた計算で、ROASだけ見るとかなり効率が良いように思えます。
しかし、このFacebook広告では初回購入特典やクーポンによって利益率が低い商品を販売していたと仮定します。仮に粗利率が20%(売上のうち20%が利益)しかない商品だとすると、320万円の売上に対し純利益は64万円程度です。広告費50万円を差し引くと利益はわずか14万円となり、ROI(投資利益率)で見ればわずか28%程度にしかなりません。つまりROAS640%でも、粗利の低い商材では十分な利益が出ていない可能性があります。このようにROASが高ければ必ずしも利益大というわけではない点に留意が必要です。最終的な収益貢献を見るにはROIやLTVも踏まえて判断しましょう。
例4:Facebook広告(リターゲティング)
もう一つFacebook広告のケースとして、リターゲティング広告の場合を考えます。自社サイトを訪れたものの購入に至らなかったユーザーに対し、Facebookで追跡広告(リマーケティング)を配信しました。広告費 10万円 で 15件の再訪購入 を獲得、平均購入額が 12,000円 だったとすると売上は 15件 × 12,000円 = 180万円 となります。ROASは180万円 ÷ 10万円 × 100 = 1800%(18倍) と非常に高い数値になりました。リターゲティング広告は一度興味を示したユーザーへの再アプローチであるためコンバージョン率が高く、結果としてROASも高水準になる傾向があります。特にカート落ち(商品をカートに入れて離脱)ユーザーへの追客は効果が大きく、ROAS向上に大いに貢献します。
以上の事例から分かるように、ROASは広告の種類や運用方法によって大きく変動します。同じ予算を使っても、どのチャネルに投資するかや、誰に・何を訴求するかによって得られる売上が異なるためです。重要なのは各チャネルごとにROASを計測・比較し、最も費用対効果の高い広告チャネルに予算を集中することです。例えば上記の例では、検索広告やリターゲティング広告のROASが高く、ディスプレイ広告のROASが低い結果となりました。この場合、ディスプレイ広告の予算を縮小して検索やSNSリターゲティングに振り向ければ、全体の広告効率向上が期待できます。
シミュレーションによるROASの活用: 加えて、マーケターは事前シミュレーションによってROASの見込みを立てることも重要です。例えば「広告費をあと20万円追加したら売上はいくら増えそうか」「コンバージョン率が現在の2倍になったらROASはどう変化するか」といったシナリオを想定し、スプレッドシート等で計算してみます。Google広告には入札シミュレーションやパフォーマンスプランナーといった機能があり、入札額や予算を変更した際の予測コンバージョン数やROASへの影響を試算することが可能です。こうしたツールを活用しながら、目標ROASを達成するための最適な予算配分やKPI設定を行うと良いでしょう。例えば、目標ROASを500%に設定しているなら、「現状のCVR(コンバージョン率)や客単価では広告費○円あたり売上△円が必要」など逆算し、施策計画に反映させます。シミュレーションによって現実的な数値目標と改善余地が明確になり、無駄のない広告運用につながります。

ROASを改善するための戦略
広告運用担当者にとって、ROASを継続的に改善していくことが課題です。ROASを向上させるには、単に広告費を削減するだけでは不十分で、売上を増やしつつ費用対効果を高める工夫が求められます。ここでは、ROASを改善するための具体的な戦略をいくつか紹介します。ターゲティング手法の見直しからクリエイティブ改善、入札最適化や自動化ツールの活用まで、総合的に広告施策をブラッシュアップしていきましょう。
- ターゲティング精度の向上 – 広告は適切な相手に届けてこそ高い効果を発揮します。配信ターゲットの絞り込みや精度向上によって無駄なインプレッションを減らし、広告費を効率化しましょう。具体的には、リターゲティング広告の活用や、興味関心・行動履歴に基づくカスタムオーディエンス設定が有効です。過去にサイトを訪れたものの未購入のユーザーや、既存顧客に類似した属性を持つ新規ユーザー(類似オーディエンス)に絞って配信することで、コンバージョン率が向上しROAS改善につながります。さらに、地域・時間帯・デバイスごとの配信調整も重要です。分析により効果の薄い地域や時間における出稿を減らし、ROASの高いセグメントに予算を集中的に配分することで、全体の費用対効果を最大化できます。
- 入札戦略・CPCの最適化 – クリック単価(CPC)の最適化もROAS改善の鍵です。1クリックあたりのコストを抑えつつ質の高いトラフィックを獲得できれば、同じ予算でより多くのコンバージョンを得られます。方法としては、キーワードや広告の精査があります。効果の低いキーワードや掲載面を除外し、高ROASのキーワードに入札を集中させます。品質スコアの向上(広告文やランディングページの関連性改善)によってCPCを引き下げることも有効です。加えて、Google広告やFacebook広告が提供する自動入札機能を活用するのもおすすめです。たとえばGoogle広告の「目標ROAS」入札では、機械学習がユーザーの属性や行動パターンを考慮して最適な入札価格をリアルタイムに調整してくれます。これにより無駄な広告費用を抑えつつ、予め設定した目標ROASの達成を図ることが可能です。自社で細かな入札調整が難しい場合でも、自動入札戦略を使えば機械学習による最適化でROAS向上が期待できます。
- 広告クリエイティブの改善 – ユーザーの目に留まりクリックや購入意欲を喚起する広告クリエイティブ(画像・動画・広告文)の質も、ROASに直結する重要要素です。クリエイティブが魅力的でなければクリック率(CTR)が下がり、ひいてはコンバージョン数も伸び悩んでROAS低下につながります。改善策としてまずA/Bテストを積極的に実施しましょう。見出し文やキャッチコピー、画像のビジュアル、CTAボタンの文言や色など、異なるパターンの広告を並行配信して効果を比較します。小さな要素の違いでも結果に大きな差が出ることがあるため、データに基づいて勝ちクリエイティブを選別し最適化します。また、可能であれば動画広告の活用も検討してください。動画は静止画に比べて伝えられる情報量が多く、商品やサービスの魅力をより詳しく訴求できます。実演動画やストーリー仕立てのコンテンツによってユーザーの関心と理解を深め、エンゲージメント向上からコンバージョン増加を狙います。さらに、感情に訴えるストーリーテリングも効果的です。ユーザーの共感や心を動かすようなメッセージを盛り込むことで、ブランドへの愛着や購買意欲を高めることができます。クリエイティブ改善は一度で終わりではなく、定期的に新鮮なアイデアをテストし続けることで徐々に成果を積み上げましょう。
- ランディングページの最適化(CVR向上) – 広告から誘導した先のランディングページ(LP)が適切に最適化されていないと、いくら広告でクリックを稼いでもコンバージョン(購入・問い合わせ)につながらずROASが低下してしまいます。そこで、サイト上でのコンバージョン率(CVR)を高める施策にも注力しましょう。まず重要なのはページの読み込み速度改善です。ページ表示が遅いとユーザーは離脱しやすいため、画像圧縮やキャッシュ活用などで表示速度を高速化し直帰率を下げます。次にデザインと導線の改善です。ページ上の目立つ位置に明確なCTAボタンを配置し、ユーザーが次に取るべきアクション(購入・登録等)が直感的に分かるようにします。フォーム入力を簡略化しモバイル最適化することも必須です。さらに信頼性を高める情報の追加も有効です。ユーザーレビューや導入事例の掲載、第三者認証のマーク(プライバシー保護や業界認証)を表示することで、ユーザーの不安を和らげ購入ハードルを下げます。このように広告“後”の部分であるLPの改善によってCVRが上がれば、同じ広告費でもコンバージョン数が増えるためROASが向上します。広告運用担当者とサイト運用担当者が連携し、一貫したユーザー体験を提供することが大切です。
- 広告運用の自動化ツール活用 – 人手による細かな最適化に限界を感じたら、広告運用を支援する自動化ツールの力を借りるのも一つの戦略です。前述のプラットフォーム内の自動入札機能もその一例ですが、さらに高度な最適化や分析を行いたい場合は専門ツールの導入も検討しましょう。たとえば、広告成果レポートの自動作成ツールや入札調整の自動ルール設定ツールを使えば、ROASやCPAをモニタリングして特定の閾値を下回った広告を自動停止するといった運用が可能です。最近ではAIを活用したマーケティングツールも登場しており、リアルタイムでクリエイティブの差し替えや予算配分を行ってくれるものもあります。自社の規模や予算に応じて、GoogleやFacebookの標準機能以外にも使えるツールがないか調べてみましょう。分析ツールや自動化ツールを適切に活用することで人的リソースの効率化が図れ、より戦略的なROAS改善施策に時間を割けるようになります。
以上のような施策を組み合わせながら継続的にチューニングを行うことで、広告費用対効果の向上が期待できます。ポイントは、一つの手段だけで劇的にROASが改善することは稀だということです。ターゲティング、入札、クリエイティブ、ランディングページ、そしてデータ分析と自動化――複数の要素を総合的に改善してこそ、大きな効果につながります。小さな改善の積み重ねがやがて大幅なROAS向上となって表れ、広告投資の効率を最大化することができるでしょう。

活用できるツール紹介(Google Ads, Facebook Ads, Google Analytics, Ahrefs, SEMRush)
ROASの計測・分析や広告運用の最適化には、さまざまなマーケティングツールの活用が欠かせません。ここでは、ROAS向上に役立つ代表的なツールやプラットフォームを紹介します。広告配信そのものを行うプラットフォームから、データ分析・競合調査に使えるツールまで、上手に使い分けて広告効果を高めましょう。
- Google広告(Google Ads) – 言わずと知れたGoogle社のオンライン広告プラットフォームです。検索連動型広告やディスプレイ広告、YouTube動画広告など幅広い広告形態を運用できます。Google Adsでは各キャンペーンや広告グループごとに「広告費用対効果(ROAS)」を確認することができ、ROI管理に便利です。加えて、前述した目標ROAS入札やコンバージョン最大化入札など高度な自動入札戦略が用意されており、機械学習の力でROASの改善を図ることも可能です。他にもキーワードプランナーによる需要予測、広告スケジュール設定、デバイス別入札調整など、ROAS最適化に役立つ機能が豊富に揃っています。
- Facebook広告(Meta Ads) – Meta社(旧Facebook社)が提供するSNS広告プラットフォームで、Facebook本体やInstagramへの広告配信を統合的に管理できます。詳細なターゲティング設定が可能な点が大きな強みで、年齢・性別はもちろん、興味関心や行動履歴に基づいてピンポイントでオーディエンスを絞り込めます。その結果、無駄打ちを減らしてROASを高めることが期待できます。Facebook広告マネージャでは広告ごとに購入あたりのROAS(購入者から得た売上÷費用)などをモニタリングでき、費用対効果の高いクリエイティブやオーディエンスを分析できます。また、Facebook広告にも自動最適化機能があり、例えばコンバージョン目標を指定すればシステム側が配信最適化を行ってくれます。SNS特有の「いいね」やシェアによる拡散効果も見逃せません。魅力的な広告はユーザーによって拡散され、追加費用なくリーチが広がることで結果的にROAS向上につながるケースもあります。
- Google Analytics(グーグルアナリティクス) – Webサイトやアプリのアクセス解析ツールとして最も広く利用される無料ツールです。広告プラットフォーム単体では見えづらいサイト内でのユーザー行動データを詳細に計測できます。例えば、どの広告経由の訪問者がどのページで離脱しているか、逆にコンバージョン率の高いページはどこか、といった分析が可能です。これにより「広告→サイト訪問→購入」の一連の流れのボトルネックを発見し、改善に役立てられます。Google Analyticsでは複数のトラフィックソースにまたがるコンバージョン経路も把握できるため、各チャネルの貢献度分析(アトリビューション分析)にも活用できます。たとえば「検索広告でサイト訪問→後日リターゲティング広告で購入」という場合、直接のコンバージョンは後者ですが、GAを使えば検索広告の間接的貢献も含めて評価できます。これにより、最終クリックだけでなく包括的なROAS評価が可能となります。Analytics上で目標(ゴール)やeコマース売上を設定しておけば、広告ごとの正確なROAS計算やLTV分析も実施できます。まさに広告戦略のPDCAに不可欠なツールと言えるでしょう。
- Ahrefs(エイチレフス) – SEOやコンテンツマーケティングの分野で有名な競合分析ツールです。一見ROASとは直接関係なさそうに思えるかもしれませんが、Ahrefsは検索キーワードのリサーチや競合サイトの流入分析に強みがあり、これらの機能を広告戦略にも応用できます。例えば、Ahrefsで自社サイトや競合サイトがどんなキーワードで上位表示・トラフィック獲得しているかを調べ、その中からコンバージョンに繋がりそうなキーワードを広告でも狙う、といった使い方が可能です。競合他社が出稿しているであろうキーワードやバックリンクの状況を分析すれば、自社のリスティング広告における機会損失を発見できます。また、Ahrefsのサイトエクスプローラー機能で競合サイトの人気ページを調べ、その内容を参考にLP改善やコンテンツ制作を行うことで広告経由のCVRを高める施策につなげることもできます。直接的にROASを算出する機能はありませんが、間接的に広告効果を高めるためのインサイトを与えてくれるツールです。
- SEMrush(センムラッシュ) – Ahrefsと並んで人気のデジタルマーケティング統合プラットフォームです。SEOキーワード分析はもちろん、広告のリサーチ機能が充実している点が特徴です。SEMrushの広告リサーチでは、競合がGoogle広告で掲載している広告文や、その推定トラフィック・掲載順位などを知ることができます。これにより、競合他社がどのような訴求で広告を出し、どんなキーワードに予算を投下しているかを把握できます。仮に競合が特定のキーワードで大きな成果を上げていると推測できれば、自社もその領域に広告出稿してシェアを奪う、といった戦略を検討できます。また、SEMrushは自社サイトのオーガニック検索流入と有料検索流入を一元的にモニタリングするのにも適しており、広告とSEOの効果バランスを見ながら総合的なROI最大化を図るのに役立ちます。さらに、サイト監査機能でページ速度やモバイル最適化の問題点を指摘してくれるため、LPの技術的改善によるCVR向上(ひいてはROAS向上)にも貢献します。総合力の高いツールなので、マーケターであれば導入しておいて損はないでしょう。
以上、代表的なツールを挙げましたが、この他にも広告効果測定や運用を支援するツールは多数存在します。たとえば、A/Bテスト専用のOptimizelyや、サイト上で接客ポップアップやチャットボットを提供するKARTE等のWeb接客ツールも、間接的にROAS改善を後押ししてくれるツールです。自社の課題(ターゲティングか、入札調整か、クリエイティブか、サイト側か etc.)を見極め、それに合ったツールを組み合わせて使うことで、人手では見落としがちな改善点をデータから発見し、無駄のない広告運用が可能になります。最新のマーケティングツール情報にアンテナを張り、自社にフィットするソリューションを取り入れていきましょう。
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ROAS以外の広告効果測定指標との比較(CPA・CTR・LTVとの関連性)
広告の効果を測定・分析する上で、ROAS以外にも重要な指標がいくつか存在します。ここではCPA(顧客獲得単価)、CTR(クリック率)、LTV(顧客生涯価値)という3つの指標について、それぞれの意味やROASとの違い・関連性を解説します。各指標は視点が異なるものの、組み合わせて活用することで広告運用の全体像をより正確に把握できるため、違いを理解しておきましょう。
CPA(顧客獲得単価)
CPA(Cost Per Acquisition)は、1件のコンバージョン(顧客獲得)あたりにかかった広告費用を表す指標です。「顧客獲得単価」や「コンバージョン単価」とも呼ばれます。計算式は「広告費用 ÷ コンバージョン数」で求められ、数値が低いほど効率的であると判断されます。例えば広告費用が10万円で50件の購入が得られた場合、CPAは2,000円/件となります。CPAは主にコストの視点から広告効果を測る指標で、特に予算消化対効果を重視する際に用いられます。
ROASとの違いは、ROASが「費用に対して得られた売上(リターン)」を示すのに対し、CPAは「費用に対して得られた成果(コンバージョン数)」を示す点です。ROASとCPAは表裏一体の関係にあり、一般にROASが高い広告ほどCPAは低く抑えられている傾向があります。例えば1件あたり売上が1万円の商品でROAS200%(売上20万円/費用10万円)の広告は、コンバージョン数が20件なのでCPAは5,000円と算出できます。同じ商品でROAS100%だとコンバージョン数10件、CPA1万円となります。つまり一定の売上単価(ARPU)の下ではROASが高いほどCPAは低いと言い換えられます。ただしリード獲得など売上を伴わない目的(資料請求や会員登録など)の広告ではROAS算出が難しいため、その場合CPAが主指標になります。ROASとCPAを併用することで、収益面と費用面の両方から広告効率を評価できるため、ECの場合は「ROAS○%、CPA△円以下を目標」など双方をKPI設定することも多いです。

CTR(クリック率)
CTR(Click Through Rate)は、広告のインプレッション(表示)数に対するクリック数の割合を示す指標です。計算式は「クリック数 ÷ インプレッション数 × 100%」で表され、広告がどの程度ユーザーの興味を引いてクリックというアクションを喚起できたかを測る指標です。例えば広告が1,000回表示され20回クリックされた場合、CTRは2%となります。CTRが高い広告ほどユーザーの目に留まり共感を得たと言えます。
ROASとの違いは、CTRが広告クリエイティブ自体の反応率を示すのに対し、ROASは広告によってもたらされた売上という最終成果を評価する点です。CTRは主に広告の内容や訴求力の良し悪しを判断する指標で、クリック後のコンバージョンは考慮しません。一方ROASはクリック後に実際に購入などに至ったかまで含めた包括的な効果指標です。極端な例を挙げれば、「面白半分で多くクリックされたが誰も買わない広告」はCTRは高いがROASは低くなります。逆に、ニッチでクリック数は少ないが確実に購買に結びつく広告はCTRは低めでもROASが高くなることがあります。
したがって、CTRとROASは広告効果の異なる側面を表しています。CTRは主に上段のファネル(興味喚起)で成功しているかを見る指標、ROASは下段のファネル(購入・収益化)まで含めて成功かを見る指標と位置付けられます。両者を併せて分析することで、「クリック率は良いのになぜ売上につながらないのか?」あるいは「クリックは少ないが質の高いユーザーが来ているのか?」といった課題を発見できます。一般的に、CTRが低すぎる場合は広告のクリエイティブや訴求内容に問題がある可能性が高いです。一方CTRは高いのにROASが低い場合、興味を引くターゲットは合っているもののオファー内容やランディングページに問題がある(コンバージョンしていない)ことが考えられます。こうした分析を行うことで、クリエイティブ改善やターゲット調整、LP改善など適切な対策を講じることができます。
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LTV(顧客生涯価値)
LTV(Life Time Value)は、ある顧客が生涯にわたって企業にもたらす利益(または売上)の総額を表す指標です。簡単に言えば「1人の顧客から獲得できる累計売上(価値)」であり、リピート購入やサブスクリプション契約など長期的な関係性を前提としたビジネスで特に重要視されます。例えば月額課金1万円のサービスを平均36ヶ月継続利用するユーザーのLTVは36万円(=1万円×36ヶ月)となります。
ROASやCPAなどが現在の広告に対する即時的な売上やコストを見ているのに対し、LTVは中長期的な視点で顧客価値を捉えるための指標です。ROASの計算式では広告経由の初回購入額しか考慮されませんが、実際にはその顧客が将来リピート購入してくれれば追加の売上が見込めます。したがって、LTVが高い業界やビジネスモデルでは、一時的にROASが低くても長期的には十分ペイするという判断が成り立ちます。例えば先ほどの例でFacebook広告の初回購入ROASが100%だとしても、獲得した顧客のLTVがその後5万円であれば、長期的には広告費1万円に対し総売上5万円となり実質ROAS500%に相当します。このようにLTVを加味すると広告の真の投資対効果が変わってくる場合が多々あります。
特にサブスク型サービスやゲームアプリ、金融商品のように顧客を獲得してから収益化するまでタイムラグがあるビジネスでは、LTV視点で広告投資を考えることが不可欠です。「LTV運用」とも呼ばれますが、目先のCPAや単発ROASではなく顧客の将来価値を見据えてマーケティング予算を投下するアプローチが近年注目されています。例えばある通販企業では、新規顧客の初回購入では赤字(ROAS < 100%)になることを織り込み済みで広告を出し続けます。半年以内に2回目、3回目のリピート購入が発生し、累計では広告費を上回る売上を得られるというデータに基づいているからです。この場合、LTVベースでは広告投資は正当化されており、短期のROASだけ見れば赤字でも問題ないと判断します。
以上より、ROASとLTVは短期評価と長期評価の違いと言えます。ROASは広告施策ごとの即時的な売上回収率を示し、LTVは顧客生涯にわたる収益ポテンシャルを示します。ROASのデメリットはLTV効果を加味できない点であるとも指摘されます。そのため、マーケターはLTVも考慮したKPI設計を行うことが望ましいでしょう。具体的には「◯ヶ月以内の顧客LTVが△円を超える前提で、初回CPAはいくらまで許容するか」「定期購読ビジネスなので初回ROASは50%でもOK、その代わり解約率を下げる施策に注力する」といった形で、ROAS単体では見えない中長期の視点を補完することが重要です。

指標の使い分けまとめ
最後に、ROASとCPA・CTR・LTVの関係性をまとめます。ROASは広告費に対する売上の効率を示す指標、CPAは顧客獲得1件あたりの費用を示す指標、CTRは広告のクリック率(興味喚起度)を示す指標、LTVは顧客一人当たりの長期価値を示す指標です。それぞれ測っているものが異なるため優劣ではなく補完関係にあります。ROASが広告の収益性を示すのに対し、CPAは費用効率、CTRはクリエイティブの反応率、LTVは将来的な収益ポテンシャルを教えてくれます。総合的な広告効果の最大化のためには、これらの指標をバランス良くモニタリングし活用することが重要です。例えば、「まずCTRを改善してクリック数を増やし、次にLP改善でCPAを下げ、最終的にROASとLTVを向上させる」というように、一連のKPIとして位置づけることができます。また状況に応じて重視すべき指標は変わります。短期的なキャンペーンではROASやCPAにフォーカスし、長期的なブランド育成期にはLTVを重視するといった使い分けも有効でしょう。
いずれにせよ、ROAS単独では見えない視点を他の指標が補い、より立体的な効果検証が可能になる点を押さえておいてください。ROASを軸としつつCPAやCTRで効率を確認し、LTVで最終的な採算を評価することで、広告予算を無駄にしない賢いマーケティング運用が実現できます。
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