私は今年61歳になります。まさかこの年齢で、自宅にいながら電話をかける「在宅テレアポ」の仕事に挑戦することになるとは思ってもみませんでした。定年退職してしばらくは羽根を伸ばしていたものの、次第に感じたのは時間を持て余す孤独感と、将来への漠然とした不安です。これからの人生を充実させるため、そして少しでも家計の足しにするために、再び働く道を探すことにしたのです。
定年後、もう一度働こうと思った理由
60歳で勤めていた会社を定年退職し、最初の数か月は悠々自適な日々を過ごしていました。しかし、慣れない長い余暇に最初は解放感を覚えたものの、「自分はもう社会に必要とされていないのではないか」という思いがふと胸をよぎるようになりました。妻と二人暮らしで、子どもたちも独立し家を出ています。家では妻が趣味や近所付き合いを楽しんでいる一方で、私は朝から所在なくテレビを眺め、散歩に出かけてもどこか心が満たされない日々でした。
そんな折、老後の生活資金についてニュースで耳にし、自分たちの家計を見直してみることにしました。年金とこれまでの貯蓄だけで暮らしていけなくはないものの、想定外の出費や今後の医療費を考えると、このまま何もしないでいることに不安を感じました。退職金もいつか底をつくかもしれない――そう考えると、おちおち趣味にもお金を使えません。「もう一度働いて収入を得たい」という思いが次第に強くなっていきました。同時に、また社会の中で自分の役割を持ちたい、自分を必要としてくれる場所が欲しいという気持ちも膨らんでいったのです。
偶然目にした在宅テレアポ求人と、不安なスタート
再就職を決意したものの、シニア世代が体を酷使せずに続けられる仕事は多くありません。ハローワークや求人情報誌で清掃や警備の仕事も検討しましたが、持病もあり体力的に不安が残りました。通勤の負担がない在宅ワークならどうだろう?そう思い立ち、パソコンで在宅ワークの求人情報を調べ始めました。そこで目に留まったのが、在宅でできるテレアポの求人募集です。仕事内容は電話でお客様に連絡をしてアポイントを取るというもの。「未経験OK・シニア歓迎」という募集要項に、これなら自分にもできるかもしれないと感じました。実は私自身、営業の電話をかけるどころか、パソコンを使った在宅勤務など一度も経験がありません。それでも「自宅でできる仕事」であることや、これまで長年培ってきた「人と話す力」を活かせるかもしれないという期待が背中を押してくれました。
とはいえ、応募ボタンをクリックする指先は震えていました。頭の片隅には「テレアポなんてキツい仕事ではないか」「パソコン操作についていけるのか」という不安が渦巻いていたのです。それでも勇気を出して一歩踏み出そうと決心し、思い切って応募フォームを送りました。数日後、採用担当の方から面接の連絡をいただいたときは、驚きと喜びで胸がいっぱいになりました。面接でも年齢のことやパソコンスキルの不足を正直に話しましたが、「大丈夫ですよ、研修でしっかりサポートしますから」と笑顔で言っていただけたことをよく覚えています。
研修はオンラインで行われ、自宅のパソコン画面に担当者や他の新人の顔が映ったときには不思議な気持ちになりました。幸い、会社側で必要なノウハウは丁寧に教えてもらえました。実は私はパソコンがあまり得意ではなかったのですが、パソコンの貸し出しから初期設定の方法、さらにはトークのコツまで手厚いフォローがあり、スムーズにスタートできました。画面越しの研修は少し緊張しましたが、質問にも穏やかに答えてもらえ、「わからないことがあっても大丈夫」という安心感が生まれました。
新しい仕事が始まる前夜は興奮でなかなか寝付けませんでした。「明日から本当に61歳の新人テレアポとして働けるのだろうか」という不安と、「明日からまた自分の役割が持てるんだ」という高揚感が入り混じっていたのを覚えています。
スクリプトに救われ、先輩の一言でつかんだ手応え
いよいよ在宅テレアポとしての仕事初日。自宅の書斎にパソコンと電話機(ヘッドセット)をセットし、朝9時、緊張で震える手で最初の電話をかけました。事前に用意されたトークスクリプトを机に貼り付け、何度も読み返しては練習しておいたのですが、いざ電話がつながると頭が真っ白になります。最初のお客様へのご案内はボロボロでした。「あ、あの…」と口ごもってしまい、怪しまれたのかすぐ電話を切られてしまいました。二件目も「必要ありません」と途中で切られ、正直言って心が折れそうになりました。電話を切るたびにため息が出て、「やっぱり自分には無理なのかもしれない」と弱気な声が心の中でささやきます。
そんな中で救いになったのが、用意されていたスクリプトの存在でした。落ち着いてスクリプトをなぞりながら話せばいい、と自分に言い聞かせ、何とか三件目、四件目と電話をかけ続けました。「断られるのが普通、へこたれないこと」と研修で習った言葉を思い出し、自分を励まします。それでも、何十件とかけてもアポイントが取れない日が続きました。電話越しに聞こえてくる冷たい言葉に、夜布団に入ってから悔し涙がこぼれることもありました。
そんなある日、先輩スタッフのAさんが私の様子を気にかけて声をかけてくれました。同じ在宅テレアポ仲間ですが、チャットやオンライン会議で時折顔を合わせる方です。成績が伸び悩んでいると正直に打ち明けると、Aさんは自身の経験を踏まえて親身にアドバイスをしてくれました。印象的だったのは、電話トークのあるフレーズを変えてみる提案です。Aさんは私に「この言い回し、使ってみたら?」と優しく言いました。具体的には、お客様への最後の問いかけを少し変えてみるのです。私はそれまで、「ご不要なものはありませんか?」とストレートにお尋ねしていました。しかしAさんは、「『試しに査定だけでもいかがでしょうか?』って聞いてごらん」と教えてくれました。押し売りではなくお試し感覚でご案内する言い回しにすることで、お客様の気持ちのハードルを下げる狙いがあるようでした。
教わった翌日、早速そのフレーズを使ってみました。すると驚いたことに、あるご年配の女性のお客様は少し考えたあと「じゃあ、一度お願いしようかしら」とおっしゃってくださったのです。思わず画面の前でガッツポーズが出そうになるのをこらえ、丁寧に日時の調整をして初めてのアポイント獲得に成功しました。電話を切った後はしばらく心臓の高鳴りがおさまりませんでした。「やった、本当にできた!」と声にならない声が喉の奥で響き、久しぶりに味わう達成感に体が震えました。
それからは不思議と電話をかけることへの怖さが薄れていきました。先輩からいただいたアドバイス通り、お客様に寄り添うような言い回しや丁寧な言葉遣いを意識すると、少しずつ会話が弾むようになってきたのです。「反応が変わってきた…!」と手応えを感じられる機会が増え、自分でも驚きました。年齢を重ねても工夫次第で成長できるものなのだと、このとき実感したのです。次第にアポイントの獲得数も増えていき、自信がついてきました。「この歳でもまだ伸びるんだな」――そう思えたことが、何より大きな収穫でした。
仲間との交流、在宅でも感じるつながり
在宅での仕事というと孤独なイメージがあるかもしれません。しかし私の場合、同じ在宅テレアポ仲間との交流が大きな支えになっています。チームでは月に一度、オンライン上で全国のスタッフがお茶会のように集まる機会があります。会社ではこれを「ピタッとタイム」という名前で呼んでおり、皆で各地の名産菓子が送られてくるのを楽しみにおしゃべりをするのです。初めて参加したときは多少緊張しましたが、画面越しに映る皆さんは同年代の方ばかりでホッとしました。先輩のAさんともここで顔を合わせ、「最近調子はどう?」と声をかけてもらえました。自宅に居ながらにして仲間とつながっている実感が持てるこのひとときは、在宅ワークの私にとって何よりの癒やしです。
日々の業務でも、チャットで気軽に情報交換したり雑談したりできる環境があります。同僚同士、離れていても支え合える雰囲気があり、「自分ひとりで頑張っているんじゃない」と思えるのです。実際、私と同じ50代~70代のスタッフが多数在籍して活躍していると知り、「ここでは年齢を気にせず働けるんだ」と心強く感じました。在宅の仕事ながら決して孤独ではなく、むしろ全国に仲間ができたような心強さがあります。
生きがいと自信を取り戻した日々
在宅テレアポの仕事を始めて数か月、わが家には小さな変化が生まれました。朝、決まった時間に起きて身支度を整え、書斎の机に向かう私の姿はまるで現役で働いていた頃に戻ったようです。毎日スーツを着る必要はありませんが、「今日も頑張るぞ」という気持ちできちんと服を着替えるようになりました。仕事用のノートにはお客様との会話のメモや反省点がびっしり。電話を切るたびに「もっとこう言えば伝わったかな」「次は頑張ろう」と前向きに振り返る自分がいます。退職して間もない頃には感じていた閉塞感はいつの間にか消え、生活に張りが出たように思います。
収入も少しずつですが得られるようになりました。いただいた成果報酬で妻と近所のレストランで外食をしたとき、妻から「なんだか昔より生き生きしているわね」と笑われました。孫にも「おじいちゃん、まだ働いてるの?すごい!」と驚かれ、少し誇らしい気持ちになりました。お金以上に、働くことで得られる充実感や自信こそが、この仕事が私にもたらしてくれた宝物だと感じています。人と話すことが好きだった自分の長所を活かせる場があること、そして自分が誰かの役に立っていると思えることが、こんなにも日々を輝かせてくれるのかと驚いています。
電話の向こうのお客様から「話を聞いてくれてありがとうね」と言われたこともありました。ただアポイントを取るだけが仕事ですが、その途中で世間話に花が咲き、誰かのちょっとした心の支えになれることもあるのだと知りました。遠く離れた人と人とを電話でつなぐ在宅テレアポという仕事は、私にとって天職とまでは言わないまでも、かけがえのない生きがいとなっています。
「年齢は関係ない」——同世代への静かなエール
振り返れば、定年後の不安でいっぱいだった自分が、こうして新たな仕事に飛び込み、充実した毎日を送るまでになるとは思いもしませんでした。あのとき勇気を出して一歩踏み出して本当によかったと心から思います。最初は慣れないことだらけで大変でしたが、何かを始めるのに遅すぎるということは決してないと今は断言できます。むしろ60代はまだまだ新しい挑戦の入り口にすぎないのかもしれません。実際に働いてみて、「働くのに年齢は関係ない」という言葉の本当の意味が身に染みました。
もしこれを読んでいるあなたが私と同じシニア世代で、「今さら新しい仕事なんて…」と迷っているのなら、どうか声を大にして伝えたいです――自分にもきっとやれる、と信じてみてください。私も最初は不安でいっぱいでしたが、思い切って飛び込んでみたら、想像以上に得られるものがありました。家にいながら社会とつながる働き方は、とても満たされるものです。経験や年齢を重ねたあなただからこそ活かせる強みが、きっとどこかにあります。私でもできたのですから、あなたにもできると心から思います。
最後に、今まさに在宅でできるテレアポの求人を探している方がいるなら、私の拙い体験談がその背中をそっと押す一助になれたらこんなに嬉しいことはありません。年齢に関係なく、新しい一歩を踏み出そうとしているすべての方へ、陰ながらエールを送っています。一緒に、第二の人生を輝かせていきましょう。
他のアポインターさんのインタビューも見る
02子育て卒業、在宅テレアポで輝く – 55歳田中さんのドキュメンタリーインタビュー
04在宅テレアポは本当に儲かるのか?元オフィス勤務58歳のビフォーアフター体験
